米国のワクチン接種率が伸びないのは接種義務化のせい?義務化抗議デモ参加者に聞いてみた【米国滞在歴のある元大学教員が解説】

 現在のアメリカの2回ワクチン接種率は約55%(9/23時点)と接種率が頭打ちになっている。これは現在の日本の接種率である約56%(同日)を下回る値で、ワクチン接種が遅れていた日本がアメリカの接種率を上回った事になる。

 なぜアメリカで接種率が上がらないのか。今回はそれを解説します。

民主党支持者の多い州は接種率が高く、共和党支持者が多い州は低い傾向がある

 世界のワクチン接種率を集計しているOur World in Dataによると、アメリカ国内の州別接種率のデータもある。下のデータはアメリカ国内のワクチン接種率が高い州を順に上から並べたもので、左から州名、総人口、2回接種完了数、接種率の順に記してある。

 そのデータを見ると、民主党支持者の多い州とそうでない州で接種率が大きく異なる事が判る。例えば民主党支持者の多いニューヨーク州・ワシントン州・ワシントンD.C.・グアムなどでは60%を超えているのに対し、共和党支持者の多いテキサス州は55%、フロリダ州は56%、アラスカ州が49%、筆者が過去に滞在していたルイジアナ州は45%と、低い数値になっている。(数値は全て9月23日集計時点)

 その接種率が低い州はどんな所なのか。テキサス州はメキシコと接している州で、国境を警備する自警団の存在もある程の保守の州だ。フロリダ州はトランプ前大統領が現在隠居生活を送っている場所で、トランプが退任しホワイトハウスからヘリでフロリダ入りした際はトランプ支持者たちから熱烈な歓迎を受けた。私が住んでいたルイジアナ州は、現在の人口が448万人と2000万人を超えているテキサスやフロリダよりは人口が少ない一方で南米出身の保守的な有色人種が圧倒的に多く、中には私が住んでいたニューオーリンズで町の裏道で金のネックレスをぶら下げて弱者を恫喝するような過激集団もいる。

 果たして、そんな人たちが得体の知れない物と考えているコロナワクチンを接種しに行くだろうか。「是が非でも接種したくない」と頑固に考えている岩盤反対層が居るのも事実だ。

 そうした人たちに接種を推進する方法として、筆者の提案としては、ワクチン接種のメリットばかりではなく、デメリットも正しく報道する事が、ワクチンに対する不信感を払拭する一つの方法だと思う。その上で、打つか打たないかは個人が決めれば良い話になる。

接種義務化を押し進める行政と対立する市民たち

 カリフォルニア州では原則として12歳以上の学生にワクチン接種の義務化を求め、来年1月までに接種完了できなければ登校を認めない方針を打ち出している。

 この州の方針に対し、同州では先月末から1000人規模の抗議デモが毎週行われている。

接種義務化に抗議するワケを聞いてみた

 なぜ抗議デモが連日のように起きているか。筆者はカリフォルニアに住む抗議デモ参加者に朝日新聞社の厚意で9月27日にオンラインで記者と共に伺う機会を下さった。接種義務化に抗議する理由は、①ワクチン接種は権利であり義務ではない、②12歳のような幼い子供が接種した場合将来的な影響が未知数である、という2つの理由だそうだ。

 バイデン政権はコロナワクチンの接種を押し進めている。アメリカで接種義務化が進んでいる理由については以前に「米国でワクチン接種義務化が進む理由を元大学教員が解説します【米大統領選予想的中者の解説】」という記事で解説したが、①の背景にあるのは経済を取り戻す為に接種率の向上のみを考慮するという行政の合理的な方針に対する、権利と義務の原則が破綻しているという批判がある。ワクチンを接種するかどうかは行政が強制するものではなく、個々人が決めるべきだという理屈だ。

 ②については、ワクチン接種後の死亡データがアメリカでは明示されていないという事も接種反対の動きに繋がっている。アメリカは基本的に自己責任の国であり、接種後にアナフィラキシーが起きても、最悪死んでも、「接種した人の自己責任」として片付けられてしまう。自己責任論で子供にワクチン接種を強制させるのは理不尽だという理屈だ。

行政が接種義務化を推進するせいで接種率が頭打ちになっている

会見で誤爆を認める米中央軍のケネス・マッケンジー司令官(9/18,ABC News)

 バイデン政権に対する不信感は現在高まっている。アフガニスタン撤退では早急に撤退を押し進めるあまり、ISIS-Kによる自爆テロが起こり米兵13名が死亡。その報復として9月に行ったドローン攻撃では、テロ主犯格であるISIS-Kではなく10人の一般市民を殺害するという大失態を犯している(9月18日に米中央軍のケネス・マッケンジー司令官が会見で誤爆を認めた)。日本では余り報道されていないことに理解に苦しむが、テロ主犯格ではなく一般市民を殺害してしまったのは最悪の事件である。また、先月には乗馬した国境警備隊が移民をむち打ちする映像が拡散し、ハイチからやって来た数千人規模の移民集団を強制送還した事で非難を浴びていた。

 バイデン政権ではこうした失策が続いており、こうした求心力の低下した状況下でワクチン接種義務化を押し進めたとしても、かえって「国の政策など信頼できるか」と聞く耳を持たない者が増えるのは自明である。バイデンは1月のインタビューで私が言及したように確かに大統領としては不適格だが、今だに証拠も無いのに「不正で選ばれた大統領」と言い続ける共和党支持者もまだアメリカに居る。バイデン政権でのコロナ対策の失敗は、政府の押し進める接種義務化がかえって反対運動に繋がり、義務化が逆効果になってしまっている事が理解できていない点だ。

 ワクチン接種義務化に反対する人たちの多くは、ワクチンに対する不信感が理由にある。コロナ禍で経済を回す為には、行政が接種を強制させるのではなく、日本のように”穏やかに”ワクチン接種のメリットを伝える事が重要だろう。その場合でも先に述べたように、デメリットを正しく伝える事も必要である。

(HIROKI)