米国でワクチン接種義務化が進む理由を元大学教員が解説します【米大統領選予想的中者の解説】

 アメリカでは現在、新型コロナのワクチン接種義務化が各方面で進んでいる。バイデン大統領は今月9日に、連邦職員と医療従事者のワクチン接種義務化の大統領令に署名した。各地でも義務化の動きが進んでおり、カリフォルニア州では医療従事者に今月までに接種完了を求め、今月14日にはニューヨークの飲食店や劇場でワクチン接種証明書の掲示義務化がされている。

 何故アメリカではワクチン義務化が進んでいるのか。その理由を解説します。

テキサス州の地裁でワクチン接種義務化が争点になった

 結論から言うと、ワクチン接種義務化が争点となった裁判で裁判所が「接種義務化は合法である」という判決を下したからだ。

 今年6月に、テキサス州ヒューストンの病院職員がワクチン接種拒否を理由に病院から解雇されたという事案に対し、連邦地裁で判決が下された。

 判決は職員を解雇した病院側の勝利となり、裁判官は「職員116人のワクチンに関する嗜好(しこう)を守ることよりも、パンデミックの間に患者の診療ができる病院をもつことの公共の利益の方が、はるかに大きい」(CNNより引用)と判決理由を述べた。

 アメリカではこれまでもワクチン接種義務化を巡る論争が繰り広げられていたが、結局のところ、この地裁の判決が根拠となって米国でワクチン接種義務化が進んでいるのである。

中国への対抗心も接種義務化の背景に

 ご存知の通り、現在はコロナ感染収束に苦しむアメリカや日本とは裏腹に、中国は経済成長を続けている。

 仮にアメリカや日本がこのままコロナ収束に苦労し経済衰退を続けた場合、国内の経済は中国人たちに牛耳られるだろう。実際、ロックダウンを行っても感染拡大が続いている東南アジアでは、例えばマレーシアのクアラルンプールにある高級ホテルが経営するタワマンの多くはリタイアメントビザを取得した裕福な中国人が買い占めてしまっている。日本でも北海道の土地や豊洲のマンションなど、既に中国人に沢山買われてしまっている不動産が多い。まるで、清国がかつて欧米列強の植民地になっていた時と真逆の、中国による日本の植民地化が行われるだろう。

 バイデン大統領が「ワクチン未接種者が感染拡大させている」としつこく繰り返しているのは、コロナ禍でも破竹の勢いを見せている中国への対抗心が最大の理由だ。アメリカとしては、接種義務化を押し進めることで経済回復を試みる狙いがある。

「コロナに感染したのは自己責任」接種義務化はアメリカの非マスク文化も理由にある

 アメリカは日本と異なり、元々マスクを着用する文化が存在しない。

 経験談を記すと、筆者は半年間ニューオーリンズに滞在していたが、日本の給食では子ども達がマスクを着けて配膳するのに、私が通っていた学校ではランチの時に厨房でマスクをしている調理師は居なかったし、嫁とハワイ旅行に行った際も花粉症の筆者がマスクを着けてアラモアナで買い物していたら他の客から笑われたこともあった。

 2009年に新型インフルが流行した際、ニューオーリンズなどで働いていた私の父が「日本ではみんなマスクを着けているのにアメリカはなぜしないのか」とニューオーリンズ時代の同僚に尋ねると、「マスクは病人がするものだから」と返されたそうだ。

 また、アメリカは日本以上に自己責任論が強い国である。病気になったら「病気になったお前が悪い」で片付けられる。民間の保険は加入が難しく(映画評論家の町山智浩は自書『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』の124~125頁で、10年前の喘息が理由で保険に入れなかったと記している)、国の皆保険制度も無いので、2009年の新型インフルの時は感染しても殆どの人たちは高額な医療費を支払うことを避けて病院に行く事をためらい、感染爆発が起きた。同じように、コロナ禍ではコロナに感染しても自宅で頑張ろうとした患者が増えた結果、アメリカで感染爆発が起きた。

 実際、実質的に接種義務化となったニューヨークでは、「コロナになったのはワクチンを打たなかったせいだ」と言い出す者もいるそうだ(朝日新聞社の記者情報)。

 そういう「非マスク文化」と「自己責任論」がアメリカ社会の根底にあるからこそ、アメリカではワクチンを義務化することでマスク無しの日常を取り戻すという狙いもワクチン接種義務化を押し進める国の政策の背景にある。実際、ワクチンを打たないという選択肢が病気などの理由を除けば見当たらないし、無料で接種できる上にマスク無しの普通の生活に戻れるなら誰も不平を言う理由が無いからだ。

接種義務化に対する抗議も高まっている

 一方で義務化に反対の声も多い。国による接種義務化は「アメリカの自由を脅かす」として、保守である共和党や共和党支持者からは反対の声が多く上がっている。米国の50州のうち27州の州知事は共和党であるが、その中でジョージア州知事のブライアン・ケンプ知事は自身のTwitterで、バイデンが押し進めるワクチン義務化は憲法違反で訴訟を起こす事も辞さないと投稿した。

 バイデンとケンプは今年3月25日に可決されたジョージア州の事実上のアフリカ系への投票抑圧を巡り、対立が続いている。大統領選で激戦州とされているジョージア州は昨年の大統領選で1992年の選挙以来珍しく民主党が勝利したが、ジョージア州は州議会が両院ともに共和党が占めている程保守派が強く、3月に可決した投票規制法は票を上乗せしたアフリカ系の投票を制限するものだとしてバイデンが抗議していた。

 実はこのケンプという人物は2018年の中間選挙にも「有権者登録(アメリカは投票前に有権者登録を行う必要がある)の情報と実際の情報が一致しない」という理由でマイノリティーの投票規制を行った人物で、この規制は後に裁判で差止になったが、強権的な保守と言って良い程だ。

バイデンが押し進める「接種義務化」には壁もある

 「古き良きアメリカ」を標榜する共和党支持者の中には、ケンプのような考え方に同調する人も多い。特に現在は、先月の米軍のアフガン完全撤退で13人の米兵が亡くなった事からバイデンの支持率は低下している状況で、「不正で選ばれた大統領」という主張をし続ける者もいる(アフガン撤退については先月に解説した)。

 そのように政治的な理由で接種を拒否する人々も多くいるが、筆者を含め病気で接種が困難な者が居る事も事実である。国が押し進めているワクチン接種政策は、日本で1000人以上が死んでいるというデメリットが闇に葬られ、メリットばかりが報道され続けているのは日本もアメリカも同じだ。

 果たしてそんな状況でバイデンは、「接種費用は公費で賄うからワクチンが切れたら3回でも4回でもどんどん打ってくれ」と何時までも言い続けられるかどうか。コロナ禍で人と人の繋がりが重要視される中で、バイデンが押し進めるワクチン接種義務化は米国の分断をより広げることになりそうだ。

(HIROKI)