機械式時計の仕組み、腕時計ムーブメントのあれこれ【武井・北口の腕時計コラム】

本日から、腕時計の購入を予定されている方向けに腕時計の連載を始めていきたいと思います。

初回となります本日のコラムでは、機械式時計の仕組みと、腕時計に搭載されるムーブメントの比較について行いたいと思います。

機械式時計の仕組み


機械式時計は大きく分けて、手巻きと自動巻きがあり、手巻きは手でリューズを回すことを動力源とし、自動巻きはローターの回転を動力源とする仕組みです。

機械式時計は内部で多数の歯車が噛み合っており、リューズ回転によって生まれる動力が、2番車、3番車、4番車を経て作動します。

ヒゲゼンマイに歯車を噛み合わせただけですとゼンマイが自由に動いて正確な時刻を刻むことができませんので、時計にはエスケープメントというガンキ車、アンクル、テンプで構成された部品がヒゲゼンマイの動きをコントロールしています。

腕時計のムーブメントの種類

腕時計のムーブメントには、自社で開発・製造される自社ムーブメントと、ETAやセリタなどムーブメント会社が製造する凡庸ムーブメントがございます。

自社ムーブメントの方が手間暇かけて開発されたという意味で工芸品としての高い価値がある一方、広く流通されている凡庸ムーブメントは市井の時計修理店で安価に修理ができるというメリットもあります。

自社ムーブメントの長所・短所

自社ムーブメントの長所:
①工芸品としての価値がある
②凡庸ムーブメントよりも質感・性能が優れている
③一つ一つの部品が熟練の職人の手作業など精魂込めて作られており、シースルーバックから見えるムーブメントは質感が綺麗に感じられる。ロレックスの一部モデルのように部品一つだけで高い希少価値があるものも存在する


自社ムーブメントの短所:
①部品が広く流通されていないので原則正規メンテナンスでしか修理ができない
②凡庸ムーブメントよりも部品代が高く修理費がかさみやすい
③基本的にそのブランドでしか部品が供給されていないため、モデルチェンジなどで部品供給がストップされると市井の時計修理店で修理ができなくなる

凡庸ムーブメントの長所・短所

凡庸ムーブメントの長所:
①部品が幅広く流通されており、メンテナンスがしやすい
②部品の代用が利きやすく、長くメンテナンスしやすい
③ブライトリングのように最近では質実剛健な凡庸ベースのムーブメントも作られており、シースルーバックでなければ自社ムーブメントとの違いが分かりにくい


凡庸ムーブメントの短所:
①自社ムーブメントに比べるとコンプレックスがある
②ムーブメント製造にコスパを優先させているため、一つ一つの部品が安っぽい。シースルーバックで自社と見比べると違いが明らかになってしまう

このように自社と凡庸はいずれも長所と短所が存在するため、ブランドによっては同じブランドでも上位機種は自社、下位は凡庸と住み分けがなされていることもあります。高級腕時計は高額なため、後で後悔しないためにも互いの長所短所を調べた上で購入する必要があるでしょう。

各ブランドが製造している自社ムーブメントを紹介

では、各ブランドはどのようなムーブメントを開発製造しているのでしょうか。それぞれご紹介したいと思います。

  • ブライトリングの自社ムーブメント「ブライトリング キャリバー b01」

こちらのムーブメントは2009年に発表され、ブライトリングが誇る自社開発製造のクロノグラフムーブメントとなりました。

クロノグラフは複雑機構ゆえに一時期はロレックスもゼニスからムーブメント供給を受けたこともあったほどでしたが、ブライトリングはなんとこの複雑機構を5年の歳月をかけて自社開発製造してしまいます。しかも、作りこみやクロノグラフとしての機能が非常に優れているため、時計業界から極めて高い評価を受けているムーブメントです。

b01の主な機能としては、
①時間帯を気にせず日付早送りができる
②指の力に関係なく正確にプッシャーを押せるコラムホイール
③70時間ものパワーリザーブ
④クロノグラフ針の正確な帰零を可能にしたリセットハンマー
⑤クロノグラフ使用時の針飛びを防ぐ垂直クラッチ
⑥クロノメーター認定

などです。

コラムホイールやロングパワーリザーブなどは他ブランドの自社ムーブメントにも搭載された技術で、ブライトリングが発明した機構の素晴らしさを実感できます。

ブライトリングでは従来、限定品以外はシースルーバックを採用しなかったためこのムーブメントを直接見ることはできませんでしたが、2020年のモデルチェンジでクロノマットがシースルーバックになったため見ることができるようになりました。

なお、このムーブメントはブライトリングで正規購入すると90万円以上もかかりますが、実はチューダーのブラックベイクロノグラフという時計にもこちらのムーブメントが採用されており、そちらはなんと50万円程度でブライトリングのムーブメントを手に入れることができてしまいます。

  • ゼニス 「エル・プリメロ」

こちらは世界で初めてとなる自動巻きクロノグラフムーブメントです。毎時36、000振動という高振動で、50時間のパワーリザーブを誇ります。

かつてはロレックスのデイトナにも採用されており、クロノグラフの名機と呼ばれるムーブメントです。

  • ロレックス デイトナに採用されている「Cal.4130」

ロレックスのデイトナは2000年になるまではデイトナはゼニスのエル・プリメロを採用しておりましたが、2000年になり、デイトナにも自社ムーブメントを採用することになり、現在のデイトナはこの自社ムーブメントが搭載されております。

ただ、時計好きの方の間にはエル・プリメロを好む方がおり、エル・プリメロが採用されているref.16520も現在では中古市場で高額取引されております。

こちらのムーブメントは、部品を裏蓋付近に集約することで低重心化をして腕の装着感を高めており、ツインブリッジによるテンプ受けで高精度を、巻き上げ効率の効率化から72時間のパワーリザーブを実現させております。2007年からはブルーパラクロムがゼンマイに使われており、耐磁性と耐衝撃性が高められました。

  • フレデリック・ピゲ製ムーブメント

フレデリック・ピゲは1858年に設立されたスイスの名門ムーブメントメーカーです。こちらのメーカーはブランパンとの関係が深く、現在ではブランパンのムーブメントを製造している会社です。

このメーカーは現在スウォッチグループの一員になっていますが、過去には各ブランドへムーブメントを提供する名門ムーブメントメーカーでした。

フレデリック・ピゲが製造するムーブメントは、薄く、細部の部品に装飾を施すなど、他の凡庸ムーブメントよりも高級なムーブメントを製造しております。特にクロノグラフムーブメントのCal.1185は作りこみのレベルが高く、垂直クラッチやコラムホイールなど現在では一般的な機能を先駆けてムーブメントに組み入れました。

こうした点から、ブランドによってはETAのような一般的な凡庸ムーブメントではなく、フレデリック・ピゲ製ムーブメントを選択するブランドもあり、格上なムーブメントとしての存在感があるのです。

  • オメガの「マスタークロノメーター」
マスタークロノメーター化されたムーンウォッチの手巻きムーブメント

オメガは2016年に「マスタークロノメーター」という規格を発表します。こちらは、機械式時計が苦手とする磁気帯びに対して、シリコン製ヒゲゼンマイなどムーブメントに関係する部品を磁気帯びしないものに採用することで1万5000ガウスもの耐磁性を実現したムーブメントです。

特にスマートフォンから発せられる磁気が心配になる方もいらっしゃいますが、こちらは病院のような高磁界の現場でも耐えられる設計がされており、マスタークロノメーターと名付けられているモデルは磁気帯びに関しては心配する必要はないと考えられます。

また、2021年にはムーンウォッチの手巻きムーブメントのマスタークロノメーター化が行われ、定番モデルのムーブメントのメジャーアップデートが行われることになりました。

なぜ、いま「機械式時計」なのか

最後に、腕時計コラムを開始したいきさつについてお伝えしたいと思います。

スマートフォンが普及した現代では、腕時計の必要性はさほど低くなっております。ビジネスシーンでも、特にデスクワーク中心ですとそれほどまでに腕時計の必要性が無く、高額な定価で定期的なオーバーホールが必要な機械式時計は現代では必需品ではなくなってきております。

ですが、人生を豊かにする上で自らを研鑽するアイテムは必要だろうと思われます。これは高級な物が優れているという意味ではございません。例えば、人生のステップアップの節目に高級時計を購入すればそのブランド力に相応しい行動を取ろうとしますし、次のステップに向けて努力する意欲にも繋がるでしょう。

そうした意味で、またこちらのサイトはサブカルチャーを扱っていることもあり、腕時計の連載コラムを開始した次第です。

記事執筆者:STADYPLUS編集担当 武井
北口裕貴