モータースポーツに造詣が深い時計メーカー「タグホイヤー」が人気を集めることに成功したブランド戦略とは

タグホイヤーというメーカーにはどのようなイメージをお持ちでしょうか。10万円台から100万円を超えるものまで幅広い価格帯のラインナップがあり、高級腕時計のエントリーモデルとして若年層からの支持も厚いブランドです。

今回はタグホイヤーのブランドの歴史と、現在展開されているタグホイヤーの販売戦略を辿ってみたいと思います。

最先端技術を先取り!タグホイヤーの歴史を辿る

現在のタグホイヤーの前身にあたるエドワードホイヤー社は1860年に創立しました。

1882年に懐中時計用クロノグラフの特許取得、5年後の1887年には振動ピニオンの特許を取得。1916年には世界で初めて1/100秒計測が可能なストップウォッチを完成させました。

このようにタグホイヤーは最先端技術をいち早く取り入れたブランドとして時計業界の中で地位を高めます。

モータースポーツの世界との高い関係では、1963年にはメキシコのレース「カレラ・パンアメリカーナ・メキシコ」からインスピレーションを受けた「カレラ」が作られます。

1971年には初めてF1公式タイムキーパーを務めました。1971年の映画「栄光のルマン」でスティーブマックイーンが「モナコ」という角型時計を着用し、公式アンバサダーに就任しました。現在ではF1の公式タイムキーパーからは離れてしまいましたが、インディカーの公式タイムキーパーを2004年から務めているブランドです。

1985年に社名が「ホイヤー」から現在の「タグホイヤー」に変わりました。以降も、タグホイヤーはスポーツウォッチの高級ブランドとして展開されております。

2014年にはスイス時計業界の大御所であるジャン・クロード・ビバー氏という人物がタグホイヤーCEOに就任し、様々な大改革を行うことになります。これについては次章で詳しくご説明したいと思います。

ジャン・クロード・ビバー氏のブランド戦略

ジャン・クロード・ビバー

タグホイヤーは冒頭で説明致しましたように、価格帯が10万円台から100万円を超えるようなモデルまで幅広く設定されているブランドです。現在ではスマートフォンの普及によって腕時計の必要性が小さくなっていることもあり海外の高級時計ブランドは逆風にさらされている状況のなかで、タグホイヤーは新社会人から時計マニアまで幅広い層から厚い支持を集めております。

この人気には過去にタグホイヤーCEOを務めていたジャン・クロード・ビバーが発想したタグホイヤー独自の販売戦略があります。それを詳しく見ていきたいと思います。

① 若年層が高級時計デビューしやすくするための値下げ戦略

海外高級時計ブランドは高額な製造コストと腕時計の需要低下から、ロレックスやオメガをはじめ多くのブランドが定価の値上げを価格改定する度に行っております。特にロレックスは凄まじい高騰を続けており、デイトナのような超人気モデルは正規販売店では購入することが大変難しくなっております。

他ブランドが値上げを行うなか、タグホイヤーはあえて値下げを行いました。これには若年層に高級時計を所有して欲しいというのと、大量生産によるコスト削減が理由として挙げられます。タグホイヤーの生産ラインについては④の項目にて詳しく説明致します。

② 有名人をアンバサダーに起用して大胆に宣伝!

定価を値下げしたとはいえ、そのブランドに魅力が無ければ購入者は増えません。タグホイヤーはブランドの魅力を高めるために、各界の著名人たちをアンバサダーに起用しています。

スポーツ界ではプロテニスプレイヤーのペトラ・クビトバ、インディ500優勝経験のあるプロドライバーのアレクサンダー・ロッシ、日本ではプロサッカー選手の香川真司さんが現在のアンバサダーです。

かつてはレオナルド・ディカプリオやブラッド・ピット、クリスティアーノ・ロナウドなどといった有名人もアンバサダーを務めておりました。

こうした「誰もが知る有名人」をアンバサダーに多数起用させるブランド戦略もタグホイヤーの販売促進に大きな貢献をしているのはお分かりだと思います。

過去のタグホイヤーはF1公式計時を担っていたことからセナプロの時代を知るF1ファンからは有名な存在でしたが、ロレックスやオメガのように誰もが知るほどの高い知名度のあるブランドではありませんでした。しかし、誰もが知っている有名人たちがアンバサダーを務めることで、タグホイヤーの知名度は時計にあまり詳しくない方にも浸透するようになったのです。

③ 日常的に使用しやすい「タフ」なスポーツウォッチのモデル展開

タグホイヤーのスポーツ界との関係は前章でご説明致しましたが、タグホイヤーのモデルの多くを占めるのが日常使用しても壊れにくい耐久性の高いスポーツウォッチです。

タグホイヤーは多くのモデルで100M防水以上を保証し、また日常生活に必要な機能や日付早送り機能も搭載されておりますので、安価に高級時計を手に入れられるという消費者の魅力があるのです。

タグホイヤーの復刻モデル「オータヴィア」には、耐衝撃性能と耐磁性をもつカーボンコンポジットを使用したヒゲゼンマイを凡庸ムーブメントに取り入れられております。時計で最も重要な精度もクロノメーター規格をクリアしたものです。こうした革新的な新しい技術を低価格帯モデルにも取り入れる姿勢が、タグホイヤーの消費者を目線にした販売戦略で現れております。

④ 安いオーバーホール料金設定で長期間所有しやすい

腕時計は内部に様々な部品が噛み合っておりますので、オーバーホールと言われます定期的な内部清掃が必要になります。オーバーホールを行わずに時計を使用し続けた場合、オイル切れや金属カスの蓄積によってあらゆる交換部品が必要になりますのでオーバーホール料金が非常に高くなってしまうこともあります。

タグホイヤーのオーバーホールにかかる基本料金は3針タイプで48,600円です。こちらの値段はタグホイヤーの腕時計をタグホイヤーの正規販売店以外で購入した場合にかかる料金となります。

ところが、タグホイヤーの正規販売店で購入した場合は正規販売店で購入した特典としまして32,400円と割引が行われます。(ただし、部品の交換が必要になった場合は交換部品の料金と修理代が別途かかることになります)

なぜタグホイヤーのOH費用は安いのか

タグホイヤーが3万円~という安い費用でオーバーホールを実現できる理由には、ムーブメントに凡庸部品を使用しているのに加えて、同社がもつ大量生産ラインがあります。

タグホイヤーはビバー氏がCEOに就任する前から大量生産可能な独自の製造ラインを持っておりました。

高級時計メーカーでは、職人による手作業で一本ずつ時計製造が行われるのが主流です。ところが、タグホイヤーは機械による作業のオートメーション化がなされております。タグホイヤーは多くのモデルに凡庸部品を使用したムーブメントを搭載させており、互換性の高いパーツを使用することでコストパフォーマンスを高めております。

ビバー氏は体調不良のため2018年にCEOを退任しましたが、「エントリーしやすい高級時計」というビバーの戦略は見事にはまり、タグホイヤーは現在でも人気の高い時計ブランドとして地位を保っております。

タグホイヤーはコストパフォーマンスを高めるために凡庸ムーブメントをベースとしていることから、職人作業で作られる名門ブランドと比較すると同じ高級時計として一概に比べることはできないかもしれません。ですが、ビバー氏の発想と努力によって手が届きやすい価格を提供しながらブランドとしての地位を高めることに成功したのは多大なる功績と言えるでしょう。

※記事内の価格はメーカーによる変更がある場合がございます。ご了承ください。

記事執筆者:STADYPLUS編集担当 武井