ロシアがウクライナに侵攻したがる理由は何か。ウクライナ侵攻で世界の覇権はロシアに移る?【元大学教員の時事解説】

 昨年からロシアとウクライナの緊張状態が続いている。ロシアはウクライナとの国境付近に12万以上の兵士を投入。これに対し、昨年12月17日には米ロ首脳会談が遠隔で行われるなど、NATOとロシアは停戦協議を継続していたが、全て平行線に終わっている。

 今回の記事では、ロシアがウクライナに侵攻したがる理由を解説します。

「陸続き」というプレッシャーを避けたい狙いがある

 ↓1月26日現在の状態を追記しました。(「国際報道2022」1月24日、25日放送から作成)

 ↓下図は1月16日に記事を投稿した際のものです。

↑勢力図(2021年~2022年1月15日現在)
ロシアに隣接する国のうち、ベラルーシとウクライナはNATOに未加入

 ロシアがウクライナに拘る最大の理由は、「陸続き」になる事への警戒心である。仮にウクライナがNATOに加盟した場合、ウクライナと接している部分が大きい為、西から来るNATOのプレッシャーがロシアにダイレクトにかかってくる為、ロシア圏の安定を求めるロシアにとって防衛上の課題となってしまうからだ。

 この「陸続きがプレッシャーになる」という意味を、朝鮮半島を例にして説明する。朝鮮半島は戦後北と南に分割されたが、中国が北朝鮮を支援する理由は、仮に北朝鮮が滅び韓国主導で統一してしまうと中国と韓国が陸続きになり、中国にとって米軍基地のある韓国が防衛上のプレッシャーになる。

 ちなみに、映画史研究家の四方田犬彦は「ウクライナとはロシアの朝鮮」だと表現している(四方田,「世界の凋落を見つめて」,集英社新書,2021,P87)。かつて日本が朝鮮半島を併合したのと同様に、ロシアもウクライナを併合する事でかつてのソビエト連邦のような共同体を作りたいと考えている。

 より簡単に説明すると、読者の家の隣に大型犬が一日中ワンワンうるさく吠え続けていたらストレスに感じるのと一緒で、「陸続き」というのは敵にリスクを晒してしまい防衛面でコストが高くついてしまう為、島国でない国は地政学上どの国も避けたいと考えている。

 昨年12月にロシアは、(1)NATOがこれ以上東方拡大をしない事、(2)NATOがロシア周辺で軍事行動を行わない事、(3)NATOはロシアの国境付近にミサイル基地を建設しない事、ウクライナ紛争における停戦合意への3条件を記載した協定を、わざわざ英訳してNATOとの停戦協議で掲示した(「国際報道」2021年12月22日放送分より)。ロシアが「NATOが東方拡大をしない」という法的な約束を求めているのはそうした防衛上の理由が大きいが、アメリカのサキ報道官は「NATOに加盟するかどうかはその国の主権が決める事」だとロシアの要求に反発した。

国内インフレも要因の一つ

 大和総研のデータによると、昨年7月に2021年のGDP成長率が前年比で0.6ポイント上昇し、これは原油価格が上昇傾向にある事が由来していると分析している(ロシアはコロナ前2019年時点で世界3位の産油国)。昨年9月には社会福祉事業に約1兆円を投資した事で、医療、介護、年金生活者が安定傾向になった事も要因と考えられている。

 だが、投資の影響でインフレが深刻な状況に陥っている。日本で現金10万円給付が「バラマキ」と批判されたのと同様、社会福祉事業に国費をばらまいた事で、ロシア国内のインフレを後押ししインフレ率が5年ぶりの高水準となっている。

 インフレ率が高いと国内景気が不安定になりやすい。更にオミクロン株の影響も今後未知数だ。ロシアとしては現状では共和党が勝つであろう中間選挙が行われる前に、

 不安払拭の為に、ロシアとしては天然ガスのラインがあるウクライナを併合する事で安定した経済圏を求めるという思惑も、ウクライナに拘る要因の一つとして考えられる。

「東方拡大」を巡る解釈の違いも見られる

 NHK報道番組「国際報道」2022年1月14日放送分によると、「東方拡大」という単語の解釈を巡る対立も、ロシアがウクライナに拘る背景にあるそうだ。

 ウクライナ情勢が悪化した昨年11月から約30年前、アメリカの当時の国務長官が「NATOの東方拡大はしない」と発言。ロシアが「NATOが東方拡大に関する約束を破った」と主張するのは、この「東方拡大はしない」という発言が根拠になっている。

 ロシア側の主張に対し、アメリカは「東方というのは東ドイツの拡大をしない」という意味であると反論。また、当時はまだソビエトが解体されておらず(ソ連解体は1991年12月26日)、ロシアが主張する内容は時系列的に矛盾するというのが反論の中身だ。

ウクライナはカスピ海の資源の輸出先としても重要な拠点になっている

 一方、NATOが東方拡大を目指す理由は、EUにとってウクライナが地政学上の重要なポジショニングを担っているのが理由である。

 カスピ海で石油や天然ガスが採掘される為、黒海に面するウクライナの港は天然資源を欧米へ輸出する拠点として重要であるとEUは考えている。EU圏内では自由貿易が推進されており、圏外の国は運輸される天然資源などにも高い関税がかかる為、ウクライナをEUに加盟させたいとEUは考えているが、加盟させる為にはロシアから保護する為にNATOの勢力下に治める必要もある。

 仮にロシアがウクライナを掌握した場合、ウクライナの港もロシアに掌握される為、天然資源の運輸ルートが断たれてしまう。そうなるとEUにとっては打撃となる為、NATOはウクライナを含めた東方拡大を目指している。

1月末~ロシアがウクライナに侵攻か?

↑今年1月にロシアはウクライナにサイバー攻撃を行ったが、アメリカは昨年12月にそれを想定していた。

 今年1月15日、アメリカのサキ報道官は、ロシアがウクライナに工作員を潜伏させ、偽装工作によって、侵攻を計画している事を会見で述べた(LosAngelsTimes,2022/01/15)。その発言を詳しく説明すると、「1月末~2月までにロシアがウクライナで偽装工作を行い、それを口実に侵攻する」という内容。

 実際、14日にウクライナ各省のウェブサイトがハッキング攻撃を受け、これはロシア側の攻撃と見られている(NHK,2022/01/14)。なお、アメリカは昨年12月にロシアによるサイバー攻撃の可能性を感知しており、事前にウクライナに対策チームを送っていた(TheNewYorkTimes,2021/12/20)。このため、大事には至らなかった。

 2014年のクリミア併合時もロシアは偽装工作を行っており、サキ報道官が指摘した今回の動きは2014年と似ている。かつて日本が中国に満州を建国したきっかけとなった柳条湖事件のような事件が、ウクライナで起きるかもしれない。

 一方、アメリカは2014年のクリミア併合以降ウクライナに多額の軍事支援を続けてきたが、バイデン政権は弱腰外交と防衛費膨大を避ける狙いで、ウクライナに米軍派兵は行わない考えを表明している。この背景には、バイデンの息子ハンター・バイデンのウクライナ疑惑(ハンターが役員を勤めていたウクライナ企業が不正に関わっていたが、バイデンが不正捜査を妨害した)がまだ払拭されていない事も、バイデンがウクライナに関与したくないという理由の一つになっている。

無視できないCSTOの存在感

 プーチン大統領は今月11日、原油高騰に由来したカザフスタン騒乱を鎮圧した事をCSTOのオンライン会議で宣言。その際、「カラー革命を阻止した」と述べた。

 CSTOとは、親ロシア諸国で結成する軍事同盟で、ベラルーシやカザフスタンなど6か国が加盟している。CSTOに加盟する国で騒乱が発生すれば、他国でも介入し鎮圧する事を決めている。ただ、CSTOの決定事項では、政府に抗議できない風土が加盟国に出来てしまう為、独裁的で支配的だとしてアメリカなどの西側諸国は懸念を抱いている。CSTOは共産党の一党独裁にある中国とも関係がある為、これらの独裁的な国々が世界をリードできる力を持つと、アメリカから覇権を奪う可能性もあるだろう。

 ウクライナ東部では既に分離独立派が支配している地域もある(ウクライナの反政府勢力はロシア語話者)。弱腰バイデンのせいで世界の覇者から転落しつつあるアメリカをよそに、ロシアがウクライナに侵攻して一気に世界の覇者に上り詰めるのか?今後のプーチン大統領の動向に注目したい。

※1月26日に新しい情報を加筆しました。

(HIROKI)